ヤナギサワはサックス専業メーカーとしてのこだわりと高い技術力で、バリトンサックスにおいても数々の名器を生み出してきました。その堅牢な作りと、重厚でありながらも繊細な表現が可能な豊かな音色で、プロのジャズプレイヤーから吹奏楽部や軽音部で活動している学生まで、幅広い層に愛されています。ここでは、中古市場で特に人気が高く、見かけたら試奏する価値のある歴代の主要モデルを解説します。
なお、ヤナギサワのサックスは作りが非常に良く、中古市場でも価値が下がりにくいのが特徴です。ただし、やはり楽器の状態、特にタンポ(パッド)の状態や大きな凹みの有無によって、価格は大きく変動します。
B-900番台シリーズ(B-901 / B-991 / B-992など)

特徴・人気の理由
2014年に現行の「WOシリーズ」が登場するまで、長年にわたりヤナギサワのラインナップの主軸を担ってきたシリーズです。現在の中古市場で最も人気があり、また流通量が多く、「ヤナギサワサウンド」のスタンダードとして非常に人気があります。
- B-901
スタンダードモデル。真鍮(ブラス)製の管体で、明るくパワフルな響きが特徴です。息を入れたときの反応(レスポンス)が良く、軽い吹奏感でありながら、しっかりと芯のあるサウンドが得られます。その素直でクセのない音色により、吹奏楽やスカ、ファンクなど、幅広いジャンルに対応できるオールラウンダーです。 - B-991
プロフェッショナルモデル。B-901と同じく真鍮(ブラス)製ですが、キーの設計や細部の作り込みがより高度になっており、レスポンスの良さと音のまとまりに優れています。この構造の違いにより、B-901が持つ明るさに加え、より一層の深みと重厚感、そして音が中央にまとまるようなフォーカスされた響きとなっています。モダン・バリトンサックスの一つの完成形とも言える名器です。 - B-992
管体にブロンズブラスを使用したモデル。銅を多く含むブロンズブラス特有の、温かく、太く、そして非常に豊かな響きが魅力です。アンサンブルの中で、主張しすぎず、しかし確かな存在感を持つ低音を響かせたいプレイヤーに最適です。またマイク乗りが良く、ジャズのコンボ編成などで演奏した際に、バンド全体を温かく包み込むような、存在感のある低音を響かせることができることから、特にジャズプレイヤーから絶大な人気を誇ります。 - B-9930BSB
管体にスターリングシルバー(銀、Silver 925)を使用した最高級モデル。銀製ならではの、柔らかく、どこまでも響き渡るような美しい音色が特徴です。クラシックやジャズのソロ演奏において、聴衆を魅了する圧倒的な表現力を求めるプロフェッショナルに最適です。その無限のダイナミクスレンジと豊かな音色は、プレイヤーの音楽性を最大限に引き出します。生産本数が少なく、中古市場では非常に希少です。
中古市場での状況
非常に完成度の高いシリーズとして評価が確立されており、中古市場でも常に高い需要があります。「プロ仕様の本格的なバリトンを手頃な価格で探したい」という方にとって、最も有力な選択肢となるでしょう。特にB-992(ブロンズブラスを使用したモデル)は、その独特のサウンドから指名して探すプレイヤーが多い人気機種です。
- B-901(スタンダードモデル / ブラス製)
買取相場の目安は240,000円 ~ 350,000円
24万円前後あるいはそれ以下になるケースは、全体的に使用感が強く、ラッカーの剥がれや小さな凹みが散見される状態。タンポも古く、全交換が必要と判断される場合。
35万円近くになるケースは、大切に使われてきたことがわかる美品で、大きなダメージがなく、最低限の調整で店頭に出せるコンディションのもの。
- B-991(プロフェッショナルモデル / ブラス製)
買取相場の目安は300,000円 ~ 400,000円
30万円前後あるいはそれ以下になるケースは、B-901と同様、全体調整(オーバーホール)が必要な状態。プロの現場などで使い込まれた楽器など。
40万円近くになるケースは、ほとんど使用感のない極上のコンディションで、純正ケースなどの付属品も綺麗な状態で揃っている場合。
- B-992(プロフェッショナルモデル / ブロンズブラス製)
買取相場の目安は350,000円 ~ 500,000円
35万円前後あるいはそれ以下になるケースは、ブロンズ特有の変色が進んでいたり、調整が必須の状態。
50万円近くあるいはそれ以上になるケースは、ブロンズ管のコンディションが非常に良く、まさに「鳴らし込まれた」最高の状態のもの。その独特のサウンドから非常に人気が高く、900番台シリーズの中では最も高値が期待できるモデルです。
銀製モデルであるB-9930BSBは、市場に出てくること自体が稀なため時価での取引きとなり、状態が良ければ非常に高額な査定が期待できます。
B-800番台シリーズ(B-800)
特徴・人気の理由
900番台シリーズの一つ前の世代にあたる、1980年代のモデルです。ヤナギサワが世界的な評価を確立していく過程で作られた楽器で、現行モデルに比べると、よりヴィンテージライクでダークな響きを持つ個体が多いのが特徴です。
- B-800
スタンダードモデル。900番台シリーズが持つ華やかでパワフルな響きと比較すると、よりダークで、温かみがあり、音が中央にキュッとまとまるようなフォーカスされた響きが特徴です。このヴィンテージライクなサウンドキャラクターは、特にジャズのコンボ編成などで、非常に味わい深い音色を奏でます。
中古市場での状況
製造から年数が経過しているため流通量は少なくなってきていますが、その堅牢な作りから今なお現役で活躍している個体も少なくありません。「900番台とは少し違った、個性的なヤナギサワサウンドが欲しい」という玄人プレイヤーが探していることのあるモデルです。
- B-800(スタンダードモデル / ブラス製)
買取相場の目安は150,000円 ~ 280,000円
この年代の楽器は、買い取った後にほぼ確実に全タンポ交換と全体調整(オーバーホール)が必要になります。バリトンのオーバーホールは10万円以上の費用がかかるため、その分を差し引いた査定額が基準となります。
15万円前後もしくはそれ以下になるケースは、長年放置され、キイの動きが固いなど、大規模なリペアが必要な状態。
28万円近くになるケースは、前のオーナーがしっかりとメンテナンスをしており、奇跡的にコンディションが良い場合。ヴィンテージヤナギサワの価値を理解している専門店であれば、高評価が期待できます。
B-6:「ヤナギサワ・バリトンの原点」
特徴・人気の理由
1967年に日本で初めて製造されたバリトンサックスとして、ヤナギサワの歴史を語る上で欠かせない記念碑的なモデルです。現代の楽器とはキーのレイアウトなどが異なり、操作性には多少の「慣れ」が必要ですが、そのサウンドはヴィンテージならではの非常に温かく、人間味のある魅力的な音色です。
中古市場での状況
製造から半世紀以上が経過しているため、中古市場で見かけることは非常に稀です。実用的な楽器としてよりも、歴史的な価値を持つコレクターズアイテムとしての側面が強くなっています。もし状態の良い個体に出会えれば、それは非常に幸運なことと言えるでしょう。
これらの歴代モデルは、それぞれにヤナギサワの楽器作りへの情熱と哲学が込められています。もし自宅の物置にある楽器が該当するようでしたら、新しいユーザーの手に渡り、次の活躍につながるよう、査定に出してみましょう。