ヤマハのアルトサックスは、初心者から世界的なプロ奏者まで幅広く使用されており、中古市場でも最も流通量が多く、人気のあるブランドです。ヤマハならではの正確な音程と操作性の良さ、そして堅牢な作りで世界的な評価を確立しています。
ここでは、中古市場で特によく見かける、あるいは探す価値のある歴代の主要モデルを解説します。
なお現行機種ですが、現在はフラッグシップモデルの「YAS-875EX」やジャズで表現されるような速いパッセージも余裕でこなせる「YAS-82Z」、そしてロングセラーの「YAS-62」などがラインナップされ、また各モデルとも異なる材質で仕上げた複数の選択肢があり、選ぶ楽しさが膨らみます。
しかしながらアルトサックスの歴代モデルもそれぞれ個性がある楽器たちが揃っています。買取市場の価格帯は、テナーサックスやバリトンサックス同様に個体の状態によって大きく変動します。アルトサックスは流通量が多いため、タンポの状態やラッカーの残り具合、凹みの有無などがシビアに査定されます。ただし、他のサックスに比べてオーバーホール費用が抑えられるため、比較的安定した相場が形成されています。
YAS-62（初代・パープルロゴ）/ YAS-62II：「世界的ベストセラーの系譜」
特徴・人気の理由
「62（ロクニー）」の愛称で親しまれる、ヤマハサックスの代名詞とも言えるプロフェッショナルモデルです。1978年の発売以来、マイナーチェンジを繰り返しながら現在まで続くロングセラーですが、中古市場では特に朱色のプリントロゴが特徴の「初代YAS-62」と、その次の世代である「YAS-62II」が人気です。
初代モデルは、ベルに朱色のロゴがプリントされているのが特徴です。軽く、柔らかめのサウンドで音量やパワーは控えめですが、音の粒立ちや抜け感、息の乗りがよく、「表現の自由度」「ニュアンス重視」の演奏に向いています。そういった特徴から、ジャズやフュージョン、小編成のアンサンブルを行う演奏者から支持を得ています。
一方、1994年から2013年頃まで製造された「YAS-62II」は、ネックの設計変更などにより、より音程が安定し、明るく抜けの良いサウンドへと進化しました。改良によって初代のYAS-62よりも重量が増えたことで抵抗が増え、音も重厚になっていて、ジャンルを問わず使える「万能機」として、吹奏楽から大人の趣味まで幅広く愛されています。キイガードが一体型になっているなど、現行モデルとは異なる仕様も多く、その時代のヤマハの音を求めるファンが後を絶ちません。
中古市場での状況
流通量が非常に多く、中古市場の定番モデルです。 特に「朱色ロゴ」の初代モデルは、ヴィンテージとしての価値も加わり、状態が良いものは現行の中古品より高値で取引されることもあります。さらに、シルバーメッキ仕様の初代YAS-62Sは、Dave Kozが使っていたことから中古市場では大変人気で、市場に出てくるとすぐ買い手がつくようです。
YAS-62IIは、比較的新しくコンディションの良い個体が見つかりやすいため、「安心して使えるプロモデルを安く手に入れたい」という方に最適です。買取相場の目安としては80,000円 ～ 150,000円前後です。特にパープルロゴの美品や、タンポ交換済みのYAS-62IIは高額査定が期待できます。
YAS-62はロングセラー品なので、製造年をしっかりと把握して見積もりを取るようにしましょう。製造年が不明な場合は、専門店へ持ち込むことをお勧めします。
- 買取相場の目安
- 初代 YAS-62： 80,000円 ～ 110,000円
- YAS-62II： 80,000円 ～ 150,000円
※各個体の仕様、状態により上下に大きく変動します。
YAS-475 / YAS-34II：「隠れた名器・スタンダードモデル」
特徴・人気の理由
これらは現行のスタンダードモデル「YAS-480」や「YAS-380」の前身にあたるモデルです。
YAS-475は、62シリーズなどの上位機種譲りの基本設計を持ちながら、軽量で鳴らしやすく、耐久性に富み、キイの操作性が向上し、正確な音程を持っています。主に学生の部活用や、大人の初心者用として非常に評価が高いモデルです。
YAS-34IIはそれより少し前の世代で1994年から製造されたモデルですが、現在の楽器にはないしっかりとした吹き心地があり、コストパフォーマンスの高さから「隠れた名器」として知られています。
どちらも音の深みを求めたり表現の幅を求めるには上位機種に劣りますが、ライトなニーズには非常に向いています。またヤマハの「音程の良さ」はしっかりと受け継がれています。
中古市場での状況
アルトサックスを始めようと入門機として購入された後、ほとんど使用されずに保管されていた「美品」が出てくることがあり、比較的狙い目のモデルです。「これからサックスを始めたい」「なるべく予算を抑えたいけれど、無名メーカーは不安」という方に最適です。
YAS-475は流通量が多めで、買取相場としては40,000円 ～ 80,000円程度のレンジが多いようです。学生需要が高まる春先などは査定額が上がりやすい傾向にあります。
- 買取相場の目安
- YAS-475： 10,000円 ～ 110,000円
- YAS-34II： 7,000円 ～ 70,000円
※各個体の仕様、状態により上下に大きく変動します。
YAS-61：「伝説の初代プロモデル」
特徴・人気の理由
現在の「62」シリーズの礎となった、ヤマハ初のプロフェッショナルモデルです。1967年に発売され、1978年頃まで製造されていました。
キー配置やキーガードのデザインは、現在のモデルとは異なり「ややクラシカル」で、特に低音キイ（ベースキー）のガードは、独特な「Jガード」スタイルとなっています。また朱色でプリントされたロゴが特徴です。そして、当時のヤマハの職人の手仕事が生きる堅牢な作りから奏でられる、力強く、芯のある骨太な音は唯一無二です。
「ジャパン・ヴィンテージ」として海外でも評価が高く、現代の楽器のようなキラキラした音ではなく、中低音域に力がある音色は、ジャズやバラード、クラシックなど広いジャンルで愛されています。
中古市場での状況
製造から約50年が経過しているため、美品を見つけるのは難しくなっています。多くの場合、タンポ交換や調整が必要な状態で流通していますが、その独特のサウンドを求めて指名買いする層が存在します。
買取相場の目安は40,000円 ～ 80,000円です。大規模なリペアが必要な場合が多いため、査定額は状態に大きく左右されますが、しっかりと調整された個体であれば、ヴィンテージとしての価値が評価されます。なお世代によって評価が変わるので、シリアルやネックの刻印、ベルロゴを写真に撮り、信頼できる買取業者に伝えることをお勧めします。
- 買取相場の目安
- YAS-61： 40,000円 ～ 80,000円
※各個体の仕様、状態により上下に大きく変動します。
- YAS-61： 40,000円 ～ 80,000円
YAS-855 / YAS-875：「初代カスタムの二大巨頭」
特徴・人気の理由
1988年、ヤマハが満を持して発表した最高級ライン「カスタムシリーズ」の初期モデルです。
YAS-875は、現行のYAS-875EXの前身にあたり、全体としてバランスが良く、倍音・倍音感よりも、音の芯・明瞭さ・安定性を重視したモデルです。レスポンスやフレーズの追従性に優れ、レビューでは「深みよりもクリアさ、安定感」「どんなジャンルにも対応できるオールラウンダー」という評価がされており、安心して長く使える一本として適しています。
一方、YAS-62シリーズの改良版として制作されたYAS-855は管体が少し細く設計されており、より繊細で明るい響きと、クイックなレスポンスが特徴です。中音域の倍音が豊富で「甘く、リッチな」サウンドを持ち、クラシックというよりはジャズ／ポップス・コンテンポラリー向きです。操作性や吹きやすさも良く、扱いやすいカスタムシリーズという評価がされています。現在は後継機がなく、このモデル独自の吹奏感を求めるファンがいます。
中古市場での状況
発売当時の定価が高額だったこともあり、大切に扱われてきた個体が多い傾向にあります。 特に初期のカスタムモデルには、今は生産されていない「M1ネック」という評価の高いネックが付属していることが多く、これだけでも価値があります。
買取相場の目安としてはYAS-875で150,000円 ～ 250,000円、YAS-855で120,000円～200,000円です。現行のカスタムモデル（EXなど）への買い替えで手放されることも多く、質の高い中古楽器として人気があります。また銀メッキ仕上げや金メッキ仕上げなど、材質が違う場合はまた相場が変わってきます。
- 買取相場の目安
- YAS-875： 150,000円 ～ 250,000円
- YAS-855： 120,000円 ～ 200,000円
※各個体の仕様、状態により上下に大きく変動します。
まとめ：ヤマハのアルトサックスは、時代を超えて愛される「確かな選択肢」
ヤマハのアルトサックスは、いつの時代のモデルであっても「正確な音程」と「堅牢な作り」という、楽器として最も重要な基礎がしっかりと守られています。それが、中古市場においてヤマハが圧倒的な人気を誇る最大の理由です。
今回ご紹介した歴代モデルには、それぞれに現行品にはない独自の魅力があります。 「YAS-62（パープルロゴ）」や「YAS-61」が持つヴィンテージサウンド、「YAS-875/855」が持つ初代カスタムの重厚な響き、そして「YAS-475」のようなコストパフォーマンスに優れた隠れた名機たち。これらは単なる「型落ち」ではなく、「その時代にしか作れなかった音」を持つ名器です。
これから中古でサックスを探す方にとって、ヤマハは最も失敗の少ない、安心できる選択肢と言えるでしょう。ご自身の演奏したいジャンルや予算に合わせて、ぜひ「運命の一本」を探してみてください。
また、もしご自宅にこれらのモデルが眠っている場合は、ぜひ一度その価値を見直してみてください。長年演奏していなかったとしても、ヤマハの楽器は作りがしっかりしているため、メンテナンスをすれば蘇る可能性が非常に高いです。売却を検討される際は、そのモデルが持つ歴史的な価値や特徴を理解した上で査定に出すことで、納得のいく取引につながるはずです。
